人権及び労働関係の法規の改定および見直し

令和7年度(2025年度)以降、人権及び労働関係の法規では、ハラスメント対策の強化、育児・介護と仕事の両立支援、そして労働基準法の大幅な見直しが大きな柱となっています。

目次

①ハラスメント対策・女性活躍の強化 (2025年~2026年)

「労働施策総合推進法」等の改正により、企業の義務範囲が拡大します。職場における「ハラスメント対策」と「女性活躍の推進」は、企業の持続的な成長と労働力確保のために不可欠な取り組みです。法改正により、企業はこれまで以上に具体的な対策と情報の公表を義務付けられています。

ⅰハラスメント対策の強化(防止措置の義務化)

パワハラ、セクハラ、マタハラ(妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント)の防止が法律で義務化されています。

  • 事業主の義務: 相談体制の整備、迅速・適切な対応、再発防止策の実施が必要。
  • 具体的施策:
    • 就業規則への明記とガイドライン作成。
    • 社内ホットライン(相談窓口)の設置と周知。
    • 定期的な社内アンケートの実施。
  • カスタマーハラスメント(カスハラ)対策: 顧客等からの著しい迷惑行為を防止するため、雇用管理上の必要な措置を講じることが事業主の義務となります。

ⅱ女性活躍推進の強化

女性の能力発揮と、仕事(育児・介護)の両立支援が柱です。

  • 「2026年4月」の法改正ポイント:
    • 101人〜300人以下の企業: 「女性管理職比率」および「男女間賃金差異」の公表が新たに義務化。
    • 301人以上の企業: 情報公表項目の追加・拡大。
  • 取組事項:
    • 女性管理職比率、女性の採用比率の目標設定(例えば2030年度までに30%達成)。
    • 短時間勤務制度、フレックスタイム制、託児所設置などの柔軟な働き方の導入。
    • 男性の育児休業取得促進(家事・育児への参加支援)。

ⅲなぜ今、ハラスメント対策・女性活躍の強化が必要なのでしょうか?

  • 労働力人口の減少に対し、女性が安心して働ける環境で優秀な人材の確保が図られる。
  • 経営の多様化(ダイバーシティ)が活性化し、イノベーションが創造され企業価値の向上
  • ハラスメントによる離職や企業イメージ低下を防ぐリスク管理

②育児・介護休業法の改正(2025年4月・10月順次施行)

2024年5月に成立した改正育児・介護休業法により、2025年(令和7年)4月1日から段階的に新しい制度が施行されています。今回の改正は、子どもが3歳から小学校入学前までの期間における「柔軟な働き方」の拡充と、介護離職の防止が大きな柱となっています。

ⅰ育児に関する主な改正ポイント

仕事と育児の両立を支援するため、以下の措置が導入・拡充されます。

  • 柔軟な働き方の選定義務化(3歳〜小学校就学前)
    • 企業は、時短勤務、テレワーク、時差出勤、新たな休暇、その他柔軟な働き方のうち、2つ以上の制度を導入し、従業員が選択できるようにしなければなりません。
  • 残業免除(所定外労働の制限)の対象拡大
    • これまで「3歳まで」だった残業免除の請求権が、「小学校就学前まで」に延長されました。
  • 「子の看護休暇」の拡充と名称変更
    • 名称が「子の看護等休暇」に変わり、対象が「小学校3年生修了まで」に拡大されました。
    • 入園式・卒園式などの行事参加や、学級閉鎖時にも利用可能になります。
  • 育児休業取得状況の公表義務の拡大
    • 表義務の対象が、従業員「1,000人超」から「300人超」の企業へ拡大されます。

ⅱ介護に関する主な改正ポイント

仕事と介護の両立を支援し、介護離職を防ぐための体制が強化されます。

  • 個別の周知・意向確認の義務化
    • 家族の介護に直面した従業員に対し、企業は介護休業などの制度を個別に知らせ、利用意向を確認することが義務付けられました。
  • 早期の情報提供と環境整備
    • 40歳(介護保険料の支払い開始時期)などの節目に、仕事と介護の両立に関する情報提供を行うことが義務化されます。
  • 介護休暇の取得単位の柔軟化
    • 1日単位だけでなく、より柔軟な単位での取得が促進されます。

③労働基準法の改正【2026(令和8)年度以降の予定】

1987年の大改正以来、約40年ぶりとなる労働基準法(労基法)の大規模な見直しが進行中です。2026年通常国会への労基法改正案の提出は見送りになりました。しかし、改正論点そのものは継続検討中で、労働者の健康確保として、連続勤務上限(14連勤禁止)、勤務間インターバル義務化、法定休日の特定、有休の通常賃金方式、週44時間特例の廃止、副業・兼業の割増通算見直し、勤務時間外の連絡拒否権「つながらない権利」ガイドライン等が引き続き議題に残っています。

厚労省は2025年1月8日に「労働基準関係法制研究会」報告書を公表。ここで労働時間法制の見直し方向が示されました(労働時間・休日・休息の再設計など)。

改正の背景:なぜ今、労働基準法(労基法)を変えるのか

今回の改正が求められている背景には、日本企業が直面する3つの構造的な課題があります。

ⅰ働き方の多様化への対応

テレワークや副業・兼業が普及し、従来の「1社専属・定時出社」という働き方が当たり前ではなくなりました。法律も、こうした現実に合わせて進化する必要があります。

ⅱ深刻な人手不足への危機感

少子高齢化に伴う労働力人口の減少は、多くの企業にとって最重要課題です。

長時間労働や過度な勤務負担は、人材の確保・定着を困難にする要因となっています。

ⅲ国際的なスタンダードへの適応

EU諸国を中心に「つながらない権利」や厳格な労働時間管理が法制化されており、日本の労働環境もグローバルスタンダードに合わせる必要性が高まっています。

1987年の労働基準法(労基法)改正が主に労働時間の短縮(週40時間制への移行)に焦点を当てていたのに対し、今回の労働基準法(労基法)改正は、こうした現代的な課題に対応し、働き方の「質」そのものを再設計することを目指しています。

                   改正のポイント

改正ポイント現状改正案
・連続勤務の上限明確な規定なし14日以上の連続勤務を禁止
・法定休日の特定特定の義務なし就業規則で特定を義務化
・勤務間インターバル努力義務努力義務11時間以上の休息確保を義務化
・有給休暇の賃金3つの算定方式が混在「通常賃金方式」に原則一本化
・副業・兼業の通算労働時間と割増賃金を通算割増賃金の通算は不要に
・週44時間特例特定業務で存続特例を廃止し、週40時間制に統一
・つながらない権利法的な規制なしガイドラインを策定

改正(案)の内容

改正①連続勤務の上限が「13日」に設定される

これまで明確な規定がなかった連続勤務日数に、「14日以上の連続勤務禁止」という上限が設けられます。つまり、最大13日間の連続勤務までは認められますが、14日目には必ず休日を与える必要があります。なお、そもそも業務上7連勤が発生する場合には「時間外・休日労働に関する協定届」(36協定)の届出が必要になります。休日設計の再構築や繁忙期の“まとめ休み”運用に制約ができます。夜勤跨ぎ・オンコールの扱い整理が必須です。

改正②「法定休日」の特定が就業規則で義務化される

現在、「週休2日制」としながらも、どちらが法定休日(労基法で定められた休日)で、どちらが所定休日(企業が独自に設定した休日、法定外休日)かが曖昧な企業が多くあります。改正により、就業規則で法定休日を明確に特定することが義務化されます。

1ヶ月変形労働時間制などを適用している場合は、事前のシフト確定の段階で法定休日を定める必要があり、その旨就業規則に明記する必要があります。

休日労働の割増率(35%)の適用関係が明確になり、代休/振替の運用も厳密化します。

改正③「勤務間インターバル」が努力義務から法的義務へ

終業から次の始業までに最低11時間の休息を確保する「勤務間インターバル制度」が、これまでの「努力義務」から「法的義務」へと格上げされます。例えば、夜22時に退勤した場合、翌日の出社は朝9時以降となります。

変形労働時間制やフレックスでコアタイムを適用している場合にも注意が必要です。

遅番→早番の連続配置が困難になり、勤怠システムのインターバル判定が必須になります。

改正④有給休暇の賃金算定が「通常賃金方式」に統一される

現在、有給休暇取得時の賃金算定には、「通常賃金方式」「平均賃金方式」「標準報酬日額方式」の3つの方式が混在しています。改正により、原則として「通常通り勤務した場合に支払われる賃金」を支払う「通常賃金方式」に一本化されます。

そのためパート・アルバイトなどシフトにより1日の稼働時間が変動する場合、雇用契約書やシフト確定時に調整が必要です。

給与計算ロジック変更や、時給・シフト変動者の算定ルールの明文化が必要になります。

改正⑤副業・兼業の「割増賃金」ルールが簡素化される

副業・兼業者の労働時間管理は、健康確保の観点から引き続き通算されます。

しかし、割増賃金の支払いについては、各企業が自社での労働時間に対してのみ支払う形に見直される見込みです。

副業申請・自己申告制度の整備や健康確保・過重労働対策の枠組みが重要となります。

改正⑥「週44時間特例」が廃止される

商業、理美容業、旅館業などの一部の中小企業に認められていた「週44時間」の特例措置が廃止され、原則通り「週40時間」制に統一されます。特例業種のシフト・人員・賃金原資の再設計が必要になります。

改正⑦「つながらない権利」のガイドラインが策定される

勤務時間外や休日に、業務上のメールやチャットへの対応を拒否できる「つながらない権利」について、ガイドラインが策定される見通しです。当初は法的な義務ではなく、労使でルール作りを促すためのものですが、今後、法的な義務化も視野に入っています。

影響と準備

シフト制や深夜業務のある業種などは、労働時間短縮や増員などの実務対応が必須となります。法改正は2026年の通常国会で審議される予定ですが、企業は早めの対応準備が必要です

④国の人権教育・啓発に関する基本計画の見直し 「ビジネスと人権」の浸透

国の「人権教育・啓発に関する基本計画」は、2024年(令和6年)3月に20年ぶりとなる大規模な改定が行われました。

今回の見直しで最も注目すべき変更点の一つが、「ビジネスと人権」が独立した新たな項目として追加されたことです。

1. なぜ「ビジネスと人権」が追加されたのか?

これまで企業の社会貢献(CSR)の文脈で語られることが多かった「人権」が、現代では「企業の法的・倫理的な経営責任」へと変化したためです。

  • サプライチェーン全体での強制労働や児童労働の防止
  • 職場のハラスメント撲滅
  • 投資家や消費者からの厳しい目(ESG投資の普及)

これらに対応するため、国として「企業が人権を尊重することが競争力にもつながる」という認識を普及させる狙いがあります。

2. 基本計画における具体的な方針

改定された基本計画では、以下の3点を柱に「ビジネスと人権」の浸透を図るとしています。

人権デュー・ディリジェンス(人権DD)の促進

企業が自社の活動や取引先において、人権への悪影響を特定・防止・軽減し、その結果を公表する仕組み(人権DD)を導入するよう教育・啓発を行います。

中小企業への浸透支援

大企業だけでなく、リソースが限られる中小企業でも取り組みが進むよう、具体的なガイドラインの周知や相談体制の整備を強化します。

「ビジネスと人権」の教育

経営層から若手社員まで、それぞれの階層に応じた研修プログラムの提供や、好事例(ベストプラクティス)の共有を進めます。

3. 改定の背景にある「行動計画(NAP)」

今回の基本計画の見直しは、2020年に策定された「ビジネスと人権」に関する行動計画(NAP)や、2022年の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」と連動しています。国が教育・啓発のレベルを一歩進め、実務への定着を求めている証といえます。

4. 「人権教育・啓発に関する基本計画」改定とビジネス・人権の浸透のポイント

「ビジネスと人権」の強調(第二次基本計画)
  • 2025年6月の改定により、企業が人権リスク(強制労働、差別、不当労働など)を特定・防止する責任が明確化されました。
  • サプライチェーン全体での人権尊重が求められ、特に人権DDの実施と中小企業への支援が強化されています。
国際的な潮流と国内の行動計画(NAP)
  • 国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」の3つの柱(保護・尊重・救済)に基づき、日本のNAP(国別行動計画)が策定されています。
  • 2025年のNAP改定で、政府は人権尊重を経営の根幹に据える企業を支援する方針を強化しています。
具体的な教育・啓発活動
  • 企業、人権擁護機関、地域団体と連携し、経営層から従業員までの人権意識向上を推進。
  • 人権侵害を未然に防ぐため、サプライチェーン全体でのデュー・ディリジェンスに対する理解を促進。

人権教育・啓発に関する基本計画(第二次)の概要

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