令和7年度第2回人権啓発担当者研修会

日時

2025(令和7)年12月4日(木)

場所

野洲市総合防災センター2階研修室

テーマ

「職場の心理的安全性と人権」
~基本的人権である言論の自由や個人の尊重を職場で実現するためには、 職場の心理的安性を高めるコミュニケーションを学ぶ~

講師

吉岡 里栄子 さん
よしおかワークサポートオフィス代表 社会保険労務士
国際コーチ連盟認定講師

参加者

85名 (YouTube動画配信視聴者を含む)

心理的安全性とは、自分の意見や気持ちを安心して表現できる状態を指します。今、社員一人ひとりが尊重され、安心してものが言え、働き方ひいては生き方を自分で選べるといった、当たり前の権利の重要性に改めて目を向ける企業が増えています。人口減少はもはや不可避で、労働人口が減り続ける将来を考えれば、「上意下達」や「年功序列」「同質性」に象徴される昭和型企業の限界は明らかです。グローバル企業だけでなく、中小企業も職場での多様性確保は無関係ではありません。心理的安全性が確保された環境では、メンバーは自然な自分でいられ、疑問や意見、失敗を恐れずに安心して発言・行動でき、それが個人の尊厳を守り、ひいては組織全体のイノベーションや生産性向上につながることが可能となります。「心理的安全性とは何か」「心理的安全性と人権との関り」「心理的安全性が低い職場で起こる問題」「心理的安全性がもたらすメリット」「心理的安全性の高い組織のつくり方」などをお話しいただきました。

また、グループワークを実施し、二人一組に分かれ①あなたがイメージする「心理的安全性がある職場」はどのようなところか? ②今の職場で、より必要な「具体的コミュニケーション」はどんなことか? ③具体的なコミュニケーションを進めるために何から始めてみますか?について話し合いを行いました。

目次

1 研修の目的

多くの企業が抱える「コミュニケーション課題(ハラスメント防止など)」を解決する鍵として、心理的安全性を学ぶものです。心理的安全性の意味を理解するだけでなく、受講者が職場に戻ってすぐに実践できる「具体的な行動や視点の変化」を一つでも持ち帰ってもらうことをゴールとしています。セクハラ・パワハラ防止には、上司・部下間のコミュニケーション改善が不可欠であり、姿勢としてコミュニケーションはすぐに変わるものではなく、時間をかけて学び合う姿勢が重要です。成果としては苦手な相手への見方を変えたり、声掛けを工夫したりといった「一歩目のアクション」を促します。

2 日本企業の人権の取り組み

世界的な人権尊重の高まりを受け、日本企業にとっても人権への取り組みは、経済的な競争力を維持し、ハラスメント対策を含む現代の労務管理を行う上で避けて通れない経営基盤となっています。この「人権尊重」という理念を、現場での具体的な実践形式に落とし込んだものが「心理的安全性」であり、企業にとって不可欠な要素であると理解することが重要です。国際的な背景は諸外国からの要請や世界経済の潮流により、日本も人権重視の姿勢へシフトせざるを得ない状況にあります。企業の義務としてハラスメント対策の義務化など、人権を基盤とした労務管理が事実として求められています。抽象的な「人権」を、職場での具体的な行動や環境に変換したものが「心理的安全性」です。

3 人権関係法、ダイバーシティの動き

2020年から2022年にかけての法改正や、働く人の多様化(ダイバーシティ)、若手の価値観の変化により、企業には「個々に対応した環境整備」が強く求められるようになりました。かつては抽象的だった「人権」という概念が、現代では「否定しない」「受け入れる」といった具体的な行動レベル(コミュニケーション)へと進化しています。その人権尊重を日常の行動に翻訳したものが「心理的安全性」であり、それは単なる「ぬるま湯」ではなく、多様な人材が力を発揮するための基盤となるものです。環境の変化、法整備やダイバーシティの浸透により、画一的な管理が通用しなくなりました。人権の具体化として人権とは「意識的なコミュニケーション」そのものであり、行動レベルの課題になりました。心理的安全性の定義は人権尊重を職場での振る舞いに落とし込んだものであり、現在の解釈を再確認する必要があります。

4 心理的安全性とは

エドモソン教授が提唱した「拒絶や不利益を恐れず、誰もが安心して発言・行動できる状態」を指す心理学用語です。この概念が注目されたきっかけは、米Google社の実証実験(プロジェクト・アリストテレス)です。180のチームを分析した結果、成功するチームの条件は「個人の優秀さ」ではなく、メンバー同士がいかに協力し合えるか、つまり「心理的安全性の高さ」にあることが判明しました。逆にこれが低いと、無能と思われる不安から質問やミス隠しが起き、組織の成果を阻害してしまいます。否定や不利益を受けないと確信し、安心してそこにいられる状態。Googleの発見は高い成果を出す鍵は、優秀な人材の集積よりも「心理的安全性」でした。負の影響として心理的安全性が低いと「無知・無能・邪魔」と思われる不安から、発言や行動が抑制されます。

心理的安全性は、主体的な行動や協力関係を促すだけでなく、優秀な人材の離職防止や課題の早期発見など、生産性向上に直結する多くの効果をもたらします。一例として、アイデアが次々と浮かぶ「着想」の才能を持つ人は、否定的な環境ではその力を封印してしまいますが、心理的安全性が確保されていれば、その才能を新しいサービスや商品開発に活かすことができます。つまり、心理的安全性がある状態とは、個々の強みを殺さず、組織の力として最大限に発揮させるための不可欠な土台なのです。

5 組織へのメリット

離職リスクの低減、スピード感のある課題解決、生産性の向上。才能の解放として否定されない安心感があることで、個人の特性(例:着想の才能)が組織の利益につながります。リスクは安全性が低いと、本来輝くはずの才能が「封印」され、会社にとっても大きな損失となります。

心理的安全性が日本で広まるきっかけとなった書籍『心理的安全性のつくりかた』では、「心理的安全性」と「仕事の基準」の2軸による職場タイプが紹介されています。

不安の職場(安全低・基準高)

罰によるコントロールが支配し、有能な若手が離職しやすい過酷な環境。

寒い職場(安全低・基準低)

最低限の仕事だけをこなし、活気も対話もない無関心な環境。

ぬるい職場(安全高・基準低)

居心地は良いが、成長意欲や改善が生まれにくい「ぬるま湯」の環境。心理的安全性が高いだけでは「ぬるい職場」になってしまうため、高い基準とセットで考えることが重要であると示唆されています。

6 心理的安全性の基準

基準の重要性は単に「仲が良い」「安心」なだけでなく、仕事のアウトプットの基準をどう置くかで職場の質が変わります。リスクの可視化では各タイプの職場で起こり得る問題(離職、停滞、意欲低下)がマトリックスで明確に示されています。

目指すべき理想の姿は、心理的安全性と仕事の基準が共に高い「学習する職場」です。ここでは、互いに遠慮せず意見を戦わせる「健全な衝突」を通じて、商品やサービスの質を高め、組織全体が共に成長していきます。特に、変化が激しく正解のないVUCAの時代においては、過去のセロリーが通用しません。一人ひとりがアンテナを張り、得た情報を自由に交換し合える心理的安全性こそが、激動の時代を生き抜くための不可欠な戦略となります。

心理的安全性は「仲良しこよし」ではなく、高い成果のために意見をぶつけ合える状態を指す健全な衝突です。学習する組織として組織と個人が相互に高め合い、自律的に成長していくサイクルが生まれます。先行き不透明な時代だからこそ、現場の多様な情報を吸い上げ、試行錯誤できる環境が重要です。

7 心理的安全性のあるコミュニケーションを築く

まず「感じ方は人それぞれ異なる」という前提に立つことが重要です。特定の場所で意見が言えない人がいる場合、その背景や感情に意識を向け、「相手にシンプルに興味を持つこと」がマネジメントの第一歩となります。信頼関係の土台を作るためには、相手を理解しようとする積極的な姿勢が必要です。忙しくてその場で話が聞けなかったとしても、後から時間を作って「さっき言おうとしたことは何だった?」とフォローするなど、「あなたを受け止める用意がある」ことを示す余裕と関わりが、心理的安全性を高めていきます。個別性への理解とは自分にとっての「居心地の良さ」が、必ずしも相手と同じではないと認識します。監視ではなく、相手の状態や変化に「興味を持って見ている」ことが安心感につながります。信頼の構築とは後からのフォローや、話を聞く姿勢を明示することで、遠慮なく思いを伝え合える関係性を育みます。

8 チームで心理的安全性を高める

「異論・反論を大切に扱うこと」が不可欠です。「何を言っても否定・攻撃されない」という確信があって初めて、メンバーは自由な発言ができます。そのためには、リーダー自身が「自分の特性(強みや反応の癖)」を客観的に知ることが重要です。例えば、責任感が強いあまり予定外の意見に怒りを感じる人でも、自分の傾向を自覚していれば、怒りに任せず「今は時間がないから、次の会議で詳しく聞かせて」と建設的な対応に変えられます。こうした振る舞いの変化が、結果として若手の斬新なアイデアや将来の可能性を引き出すことにつながります。不利益や「自分だけ押し付けられる」という不安を排除し、異論を歓迎する空気を作ることが心理的ハードルの除去となります。自己理解の重要性とは自分の資質(ストレングス)が裏目に出た時の反応をコントロールすることが、コミュニケーションの質を変えます。一見「的外れ」に思える意見も、受け入れ方次第で、自分たちの世代では気づけないヒットの種に化けることを認識します。

9 心理的安全性を維持・向上させるための具体的なアプローチ

以下の2点が挙げられます。

チームの状態を客観視し、話題にする会議が停滞している際など、あえて一歩引いた視点から「今は一部の人しか話せていないようだけど、みんなはどう感じている?」と現状をフィードバックします。勇気のいる行動ですが、この「仕切り直し」が場の空気を変えるきっかけになります。

「問い」を共有し、存在意義を再確認する

リッツ・カールトンの「今日、私たちは世界一のサービスを提供できているか?」という問いのように、チームで共通の問いを持つことです。自分たちの仕事の意味を問い直すことで、メンバー一人ひとりが主体的に行動する「問いの連鎖」が生まれ、組織の質が高まります。責任ある立場の人があえて今の「悪い空気」を言葉にすることで、停滞から抜け出します。共通言語の作成を行うために会社の理念やチームの課題を「自分たちへの問い」に変換し、日々の行動の指針にします。問いを共有することが、心理的安全性を基盤とした高いパフォーマンスの維持につながります。

10 コーチングの世界でも

心理的安全性に通ずる大きなパラダイムシフトが起きています。かつて(1990年代後半〜)は「答えは相手の中にある」とし、コーチが巧みな質問でそれを「引き出す」アプローチが主流でした。しかし時代の変化とともに、現在は「引き出す側」と「引き出される側」という上下・分離した関係ではなく、双方が対等な立場で「問いを共有する」アプローチへと進化しています。手法の変化です。質問力を磨いて答えを「抽出」する技術から、共に考える姿勢への転換。一方が他方に働きかける構造から、同じ問いに向き合う「共創」の形へ。

11 心理的安全性を築くための具体的なアクション

否定しない受け止め方

即座に「違う」と拒絶せず、「そういう見方もあるね」と一度受け止める。否定から入らないことが、相手の意欲を削がないコツです。

承認の習慣

心で思うだけでなく、具体的な行動に対して「ありがとう」「助かった」と言葉に出して伝えます。この積み重ねが信頼関係を生みます。

上司によるミスの共有

本能的に隠したくなる「弱み」や「ミス」をあえて開示します。上司が自己開示することで、ミスを隠蔽し合う「完璧文化」から脱却できます。

配慮しつつ注意するスキル

人格を否定せず、仕事の内容やミスという「事柄」に絞って指摘します。ハラスメントを恐れて萎縮せず、正しく注意するスキルが求められています。

拒絶の回避

良かれと思った反論も、相手には「拒絶」と受け取られ、発言を控える原因になります。

アウトプットの重要性

感謝もミスも、頭の中で完結させず「言葉にして共有する」ことが組織の文化を変えます。

事実と人格の分離

感謝もミスも、頭の中で完結させず「言葉にして共有する」ことが組織の文化を変えます。

心理的安全性についての研修の締めくくりとして、受講者へのエールと実践の呼びかけです。社会や経済が大きく変化し、人権やコミュニケーションの重要性がかつてないほど叫ばれる変革期において、心理的安全性の構築は不可欠です。コミュニケーションの改善は一朝一夕にはいきませんが、今日学んだことの中から「まずは一つ」、職場で実践してみてください。その小さな行動が、自分と相手、そして職場の空気を変える第一歩となります。今は社会全体がコミュニケーションのあり方を問い直されている時代です。一歩のアクションとして苦手意識があっても、まずは行動に移すことで周囲へ影響が広がっていきます。実践した際の自分と相手の変化を観察することが、学びを定着させます。

アンケート回答結果

1.講演内容の感想
1心理的安全性について分かりやすく理解できた。
2普段の業務の中で、自分が、もしくは、他人に心理的安全性の欠如がないか感心する研修でした。
3心理的安全性を持たす事が相手への配慮にもつながる事がわかりました。
4実際に行動し、反映することは困難であると感じました。信頼関係を築くことの難しさ・重要さがわかりました。
5大変勉強になりました。
6自分の職場の心理的安全性について考えさせられました。人と人との信頼関係をいかにつくっていくのか、その方策を考えるいい機会になりました。
7気づかない部分を分かりやすく講演いただき、職場での人権尊重にフィードバックできそうです。
8参考になりました。
9この研修自体が、心理的安全性の高い場でした。非常に有意義な時間でした。
10人権について、抽象的な考えをもっていたが行動として相手を見せることの大切さを学ぶことができた。新入社員として、上司の考えも理解していくことも大切だと改めて思った。
11心理的安全性について、良く知らなかったが、コミュニケーションが大事なんだと知ることができた。他社の方とグループワークをし、意見を伺えることができて良かった。
12「職場の心理的安全性と人権」の言葉の深さを感じた。講演を聞けば簡単に感じるが、それさえ出来ていない難しさを感じた。かかわる人全てが同じ意識が必要。
13異論反論を大切にあつかう。会社でも異論を発する人を大切にしている。会議が楽しくなっている。
14同じ業種、職場同士の人との意見交換(グループワーク)はやりやすいと思いますが、全く異業種の方とはむずかしい場合もあると思いました。同じ業種、職場の方が効果的。
15ハラスメントがすぐ出てくる世の中でコミュニケーションがなくなっていくのをすごく感じます。そんな上司をみながら仕事をすることで自分もコミュニケーションをとることをサボってしまっている気がしてハッとしました。
16「心理的安全性」という言葉を今日初めて知りましたが、現状、職場で課題となっているテーマだったので、とても参考になりました。
17今年参加した中で一番理解が深まった機会になったかと思います。
18心理的安全性という言葉は、聞いた事はありましたが、具体的には分かりませんでしたので、講演で学べて良かったです。
19興味のあるテーマであり、聞き入った。
20為になる内容もあった。
21講習ありがとうございました。
22心理的安全性の重要性についてよく理解出来ました。自身の職場でも心理的安全性を高めているように日頃から注意しているつもりですが、さらに深めていきたいと思います。
23会社(職場)の内容で、身近でわかりやすく、時間が足りないくらい「濃い」研修であった。
24職場の課題はハラスメント対応の難しさだと感じていた。その点少し深堀出来た講演(研修)だったと思います。
2.ご自身が「心理的安全性と人権」について気づいたこと、学んだこと
1否定せず相手と一緒に考えて課題を乗りこえようとする事で心理的安全性がより保てると思いました。
2どのような職場にも存在し、解決していかなければならない課題と感じました。
3効率的で成果をあげられる条件が「メンバー同士がいかに協力しあうか」という事。
4安全性と基準のバランスの取り方の難しさを改めて感じました。
5初めて聞く言葉でしたが、今後大切にしていかなければいけない事だと思います。今日の内容は会社でも共有したいと思います。
6自分の職場の心理的安全性について考えさせられました。人と人との信頼関係をいかにつくっていくのか、その方策を考えるいい機会になりました。
7具体的なコミュニケーションを実践して、相手の人権尊重につなげていきたいと思います。今日から実践してみます。ありがとうございました。
8職場での安心安全の大切さ。
9具体的なコミュニケーションは、非常に分かりやすかった。
10「弱みを共有すること」があまりない考えだったので印象的です。
11コミュニケーションをすることが大事でも、相手を尊重する考えが必要だと学んだ。
12まずは自分が行動を起こすことが大切。
13上司がミスを共有する。「完璧文化をつくらない。」印象に残りました。
14否定しない受け止めは大切だと思った。反面、とんでもない意見を言っている相手に対してはどのように最後納得させたらいいのか?というジレンマを感じました。
15相手を受け入れることがいかに大事か。
16建設的な議論が大切だと学べて良かったです。相手を否定しないだけだと、どうしても物事が進めなかったり、結果として悪い方向に流れる人があった。
17まず何かをする事社内に持ち帰り自分には何ができるか考え相手を理解する事をしたいと思います。
18具体的なコミュニケーションの方法が分かって良かったです。
19職場内での心理的安全性の必要性。
20心理的安全性の意味を知れた。
21ありがとうの気持ちを言葉に出すよう心掛けます。
22日頃から心理的安全性のある職場作りを目指していますが異動のある職場であり、文化として定着出来るようにしてまいりたいと思います。
23ほとんどが参考になるので、資料を読み返す。
24プロジェクト成功のポイントはチームワークである。良いチームの状態をつくるまた維持する為コミュニケーションを学ぶ事の重要性を学んだ。コミュニケーション能力も勉強する事で向上する。
25コミュニケーションは大事だと改めて思いました。
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