- 日時
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令和8年7月9日(木)
- 場所
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野洲市総合防災センター2階研修室
- テーマ
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「公正採用選考と人権」~社会的背景から考える~
- 講師
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松浦 広明 さん
公益財団法人滋賀県人権センター 人権啓発担当



1. 身元調査のリアルと「忍び調査」の誤解
近年、応募者のSNSの裏アカウントを特定するなどの不適切な身元調査が横行しており、啓発ポスターが作られる事態となっています。こうした「忍び調査」を行う側には、悪びれる様子もなく堂々と調べるケースが目立ちます。大前提として、身元調査を行うことは法律や国の指針で明確に禁止されていますが、世の中から無くならないのが実態です。その根本的な背景には、身元調査が内包する深刻な問題性や、他人の尊厳を傷つけているという事実が世間に正しく認識されておらず、「リスク回避のために調べて何が悪い」という開き直りが生まれている点にあります。一方で、滋賀県やハローワークが主催する研修会に熱心に出席している事業者の間では、こうした不適正な事象はめったに起こりません。参加者は「身元調査のような不条理なことは絶対にやってはいけない」という高い人権意識と強い当事者意識をすでに持っています。本講演は、高い意識を持つ事業者たちに向けて、取り組みの本質的な意味を改めて共有することを目的としています。

2. 現代の歪み:SNS裏アカウント調査と「バックグラウンドチェック」の罠
企業による採用現場での「SNS裏アカウント調査」や「バックグラウンドチェック(身元調査)」は、法律や差別の観点から非常に危険な問題を孕んでいる。まず、専門業者に依頼して応募者の匿名アカウントでの投稿を調べる「裏アカウント調査」は、本人の適性と能力のみで判断するという職業安定法の趣旨に反する、明確なコンプライアンス違反である。企業側はネット炎上による大損害を回避するためと主張するが、社会の公器である企業は、未熟な失敗をした若者にやり直しの機会を与えて教育していくべきである。理不尽な第三者からのクレーマーに怯え、若者の復活のチャンスを裏から摘み取ってしまう現状には強い危機感がある。さらに深刻なのは、これに付随して行われる「バックグラウンドチェック」である。これは実質的に、生まれ育った場所、家族の宗教や仕事、近所の評判などを周囲から聞き取る不当な「身元調査」に他ならない。日本社会では1975年の事件以降、「身元調査は絶対に不可」という共通認識の下で規制されてきた。しかし現在、横文字への言葉のすり替えによって、かつて禁止されたはずの身元調査が再び公然と行われようとしており、長年かけてはめてきた差別の「タガ」が外れつつある。企業は「参考程度」と言い訳するが、高額な経費をかける以上、実質的には落とすための材料として利用されている。仕事や実務能力に一切関係のないこれらの調査は、非常に危険な現代の歪みである。
3. 職場の「安全・安心」をチェックする(人権チェック)
企業における「人権への取り組み」は、地震や火災に対する「防災・消防の取り組み」と全く同じ構造である。普段、事業所内で消火器の場所や通報ベルをチェックするのは、従業員の「命を守るため」に絶対必要な義務だからに他ならない。人権への取り組みも、その目的は「従業員の命を守ることに直結している」という点で完全に一致している。一見、職場での小さなハラスメントや面接での不適切な扱いは些細なことに思えるかもしれない。しかし、「これくらい良いだろう」という日々の小さな理不尽の積み重ねこそが、従業員の生きていく上での自由や個人の考え方を奪っていく。人としての尊厳を日々の職場でジワジワとすり潰された人間が最終的に行き着く先は、命を失うこと、すなわち「死」である。人権侵害は、いずれ人の命に関わりかねない重大な事態を引き起こす。したがって企業は、防災と同じレベルで職場内の人権状況を常にチェックしなければならない。具体的なチェック項目としては、人権啓発担当者(窓口)の適切な設置、問題発生時の通報・相談窓口の整備、そして職場内における定期的な人権研修の実施などが挙げられる。企業は、日々の小さな軽視が重大な結果を招くリスクを強く認識すべきである。そして、防災対策と同様に、従業員の尊厳と命を守るための人権体制の構築とチェックを「絶対にやらなければならない義務」として徹底する必要がある。
人権啓発担当者の具体的な役割は、研修会への参加や人権尊重活動の推進、そして差別や偏見という社会的阻害要因によって就職が困難となっている「就職困難者(障害者、高齢者、マイノリティなど)」への対策である。採用側が、これら少数派の人々が被ってきた不利益を正しく理解していなければ、採用選考の窓口に「公正さ」をもたらすことは到底できない。さらに重要な現実として、人権啓発担当者には、人事労務に関する事項について社内で相当の権限を有する人を選任する必要がある。不適切な質問をしてしまった事業所では、「採用権限はすべて本社にあり、現場には一切ない」というケースが驚くほど多い。これでは担当者が完全に「形骸化」し、名前だけの存在になってしまう。たとえ本社採用のシステムであっても、人権や人事労務の課題に関しては、現場のトップがある程度しっかりと問題に関わらなければならない。そうでなければ、現場の意識を変えることも、本社に対して不適切な面接の是正を求めることもできず、何も話が通らなくなってしまう。担当者をただ設置して満足するのではなく、いかに実効性を持たせて運用していくかという点を、各事業所で本気で考えることが求められている。
4. 歴史的背景:日本固有の差別問題と「水平社宣言」の原点
日本の「公正採用選考」や企業内啓発の考え方は、日本固有の人権問題である「部落差別」を最大の出発点としている。大正11年(1922年)に発せられた日本最初の人権宣言とされる「水平社宣言」は、差別されてきた当事者たちが自ら社会に向けて声を上げた歴史的な文書である。部落差別とは、特定の地域やそこにルーツがある人を、結婚や就労などあらゆる社会的繋がりから排除していくものであり、2026年現在も社会の中に厳然と残っている。また、海外には「場所そのものを対象に差別する」という概念がないため、アメリカの巨大IT企業に差別書き込みの削除を求めても理解されず困惑されるほど、日本国内で特異な差別構造として今なお存続している。この水平社の動きは滋賀県でも深く展開された。全国水平社の結成から2年遅れた1924年(大正13年)、県内のあるお寺で「滋賀水平社」の結成大会が行われた。2年の遅れが生じた理由は、当時の日本社会が厳しい弾圧の時代だったからである。翌1925年には国の方針に異議を唱える者を徹底的に取り締まる「治安維持法」が制定された。当時、「部落差別をなくそう」と声を上げる運動は政府への批判や危険思想とみなされ、警察から厳しい監視を受けていた。先人たちはその取締まりの網の目を必死で掻い潜り、2年をかけてようやくお寺に集まり、結成にこぎつけた。先人たちが100年以上の時間をかけて繋いできた解放のバトンであるが、この問題は100年経った今も解決しきっていない。現代の企業や私たちは、この未解決の歴史の延長線上に立っているのである。
5. 採用選考の歪み:1950年代の差別実態と「仕事に関係ない」項目
1950年代の日本では、高校を卒業した若者たちが、面接で生まれや住所、地名などの地理的位置を細かく特定され、答えた瞬間に門前払いされる不条理な「就職差別」が横行していた。この状況に「許せない」と声を上げたのが学校の先生たちである。努力や能力とは無関係な理由で落とされる教え子たちの姿を見て、先生たちは「本人の適性と能力以外の部分で採否を決めるのはおかしい」という、現在の公正採用選考の大原則となるシンプルな視点に行き着いた。当時の企業は、応募用紙の様式がバラバラな「ガラパゴス化」状態にあり、本籍地や親の職業、家の状況(持ち家か借家か)など、仕事に一切関係のない項目を独自に詰め込んでいた。これほど執拗に家族や身元の情報を聞き取ろうとした理由は一つ、巧妙に情報を引き出すことで「部落の人間ではないか」と裏で炙り出し、社会から排除するためであった。生まれや育ち、家庭環境は本人の意思では絶対に選べない。自分が選んだわけではない理由で「雇わない」と社会から拒絶された当時の若者たちは、どこでも働けないという絶望に突き落とされた。そして、この排他主義の刃は被差別部落だけでなく、在日外国人や障害者、高齢者など、あらゆるマイノリティに対しても「その属性を持つ者とは一緒に仕事をしない」という形で向けられていた。こうした間違った差別のシステムを根底から解体しようとする動きこそが、公正採用選考の歴史の歩みなのである。
6. パラダイムシフト:1965年「同対審答申」と「統一応募用紙」の誕生
1965年の「同和対策審議会答申(同対審答申)」は、日本の人権行政における最大の転換点となった。それまでの日本社会には、差別は当事者側に原因があるとする歪んだ常識が根深く存在していた。しかし、この答申は「差別は社会の構造的な歪みによって生み出されたものであり、解決は国、自治体、そして国民全体の責務である」と明言し、従来の常識を真っ向から覆した。この答申は、憲法が保障する「職業選択の自由」や「就職の機会均等」を阻む就職差別を排除する強力な追い風となった。これを受けて国の動きは一気に加速し、1971年から1973年にかけて全国共通のフォーマットである「統一応募用紙」が策定された。これにより、企業ごとに独自の基準で応募者をふるい落としていたバラバラな状態が一新され、人権に配慮した共通の仕組みが確立された。これが現代のJIS規格の履歴書へと繋がる原点である。ただし、人権への認識は時代とともに日進月歩で進化しており、当時の用紙と現在の用紙では、その中身は全く異なっている。
7. 衝撃の裏切り:形骸化と「部落地名総鑑」差別事件の教訓
1965年の同対審答申や統一応募用紙の策定後も、独自の「社用紙」を使い続ける企業は多かった。そんな中、1975年に社会を揺るがす「部落地名総鑑差別事件」が発覚する。『部落地名総鑑』とは、全国の被差別部落の具体的な住所や人口、地場産業の一覧をまとめた、企業の人事担当者向けの「身元調査用ブラックリスト」であった。なぜ地場産業まで記載されていたのか。それは企業の社用紙の「親の職業欄」と連動していたからである。被差別部落には歴史的経緯から地域特有のメイン産業が存在する場合があり、企業は応募者に書かせた親の職業とこの本を見比べることで、本籍地を隠されても裏から応募者のルーツを炙り出すことができた。この本は面接官に予断と偏見を植え付け、不当に排除するための道具として、多くの企業間で「人事極秘」として高額で売買されていた。誠に残念ながら、当時滋賀県内の事業所にもこの本を購入・使用していた企業が存在した。目的は応募用紙と見比べて試験のチャンスすら与えずに門前払いすることであったが、これは応募者にとって理不尽極まりないだけでなく、企業にとっても会社を発展させたかもしれない優秀な人材を自ら失う経営上の大損失であった。当時、滋賀県内でこの本を購入した事業者たちは、なぜ購入に至ったのかを社内で徹底的に検証した。その上で、県内全域の集会や研修の場で自らの過ちを生々しく報告し、地域に痛烈な教訓を残した。しかし、この最悪の事件が発覚したからこそ、「裏での身元調査を絶対にやめ、本腰を入れて完全に統一応募用紙の形へ移行しなければならない」という強力な本気の追い風が吹くことになったのである。
8. 現代へ続く闇:「戸籍ビジネス」の摘発と「結婚差別」の地続き
『部落地名総鑑』という差別の道具は、2000年代に入ってからも形を変えて何度も蘇ろうとしている。2016年には、このデータをデジタル化してインターネットの通販サイト上で販売しようとする事件が発生した。最高裁判所まで争われた結果「世に出してはならない」と販売を禁止する判決が下されたが、身元を調べたいというニーズが未だに現代社会の裏側に生き続けている事実は消えない。実際、探偵所を使って個人の身元をこっそり調べようとする人間は今も存在する。依頼を受けた探偵所が、裏で繋がっている一部の行政書士などの専門職に頼み込み、その職務上の権限を悪用させて他人の戸籍や住民票を不正に取得・売買する「戸籍ビジネス」という闇が根強く残っている。2021年にも、宇都宮の行政書士がこの不正取得で逮捕される事件が実際に起こった。なぜこのような身元調査のニーズがなくならないのか。それは、企業の採用選考だけでなく、この問題が個人の「結婚差別」に直結しているからである。部落差別の底流には「この地域の人間と関わりを持ちたくない」「結婚させたくない」という排除の論理が流れている。日本の結婚は、憲法で「両性の合意のみに基づいて成立する」とはっきり保障されている。しかし、現実の実態はいまだに古い「家制度」や「家と家との繋がり」という考え方に強く縛られており、「あそこの家と繋がりを持つなんてとんでもない」という時代遅れな偏見を抱く人が現代にも隠れている。こうした根深い偏見や排除の論理こそが、現代の企業の採用現場における「SNSの裏面調査」や「バックグラウンドチェック」への依存へと、地続きで繋がっているのである。
9. 職業安定法の順守と「内定後書類」の死角
現代の採用選考は「職業安定法」に基づき、応募者本人の「適性と能力」のみで判断することが大原則として義務づけられている。仕事に関係のないプライバシーや家族の背景などを採否の判断に盛り込むことは厳格に禁止されており、時代に合わせて応募用紙もアップデートされてきた。例えば、現在の用紙には性別欄がなかったり、面接官が良かれと思って「愛読書や思想信条」に触れる不適切質問を誘発しがちだった「趣味欄」が廃止され、「志望動機」や「自己アピール」など仕事に直結する項目へとまとめられたりしている。しかし、入り口が綺麗にアップデートされても、多くの企業が未だに無自覚に陥っている大きな「死角」がある。それが「内定後や入社時の手続きに従業員に書かせている社内書類」の存在である。多くの企業では、内定後の「家族の状況届出書」などに依然として本籍地や家族、親の職業欄を含め続けている。これらは不適切な「社用紙」であり、完全にアウトなため一刻も早くやめなければならない。人権を守るための鉄則は「業務上、必要のない個人情報はわざわざ集めない」ことである。扶養手当の支給に必要な家族構成の把握は問題ないが、手続きに関係のない従業員にまで一律で本籍地や家族の職業を提出させる必要性は一切ない。かつての書類には、現代では使われない「不具廃疾(障害の有無)の事由」という不要な項目が堂々と印刷されていた例もある。過去からの「前例踏襲」という考え方こそが、差別や偏見を社内で生き残らせてしまう一番の罠である。だからこそ企業は、自社の書類様式を何度も徹底的に見直さなければならない。研修後に自社へ戻ったら、従業員に提出させるすべての書類様式をすぐに見直すべきである。
10. 人権研修の真意:「推進状況調べ」と学ぶべき18のテーマ
行政から毎年事業所へ届く「公正採用選考人権啓発推進状況調べ」というアンケートは、企業内での人権研修の実績を確認するためのものである。回答用紙の研修テーマ欄には、公正採用選考や同和問題、男女共同参画、障害者、ハラスメント、LGBT等、さまざまな項目が並んでいる。行政がこれらの項目を設けているのは、企業に具体性を持って学んでほしいという強い思いがあるからであり、人権研修においては浅く広く学ぶだけでなく、時には一つのテーマに絞って深く学ぶ「密度の高い研修」も不可欠である。ちなみに、法務省が定める「人権啓発活動強調事項」は、科学技術が進歩した現代の世相を反映し、つい最近になって従来の17項目から18項目へと増えた。新しく追加された18個目のテーマは「ゲノム情報(遺伝情報)に関する偏見や差別をなくそう」という課題である。遺伝情報による新たな差別を生まないよう、国が動いた結果である。ここで最も重要なのは、企業として学ぶべき人権課題は無数に存在し、従業員の数だけ千差万別な課題が事業所の中に最初から内包されているという事実である。それらの課題が表面化していないのは、ただ周囲が知らないだけ、あるいは本人が社内でカミングアウトしていないだけのケースが圧倒的に多い。そのため、企業は法務省が定める18の項目をただ型通りに学ぶだけで満足してはならない。実務に励む従業員一人ひとりの顔を思い浮かべ、社内にある「見えない人権課題」に対していかに想像力を働かせ続けられるかが、これからの企業に強く求められている。
11. ここ「野洲市」に宿る高い人権風土
本日の会場である野洲市では、年数回の大きな研修会を開くだけに留まらず、市の職員が「人権啓発推進班員」として地域の事業者を一つひとつ直接訪問し、密な意見交換や情報交換を行っている。この対話を通じて、社内研修の組み立て方をアドバイスし、従業員の命を大切にする人権文化や風土の高い会社作りへと導いている。このように行政と事業者が手を取り合い、現場で地道な対話を重ねる取り組みがあるからこそ、野洲市は素晴らしい。徹底した巡回指導や研修の仕組みが地域に根付いているため、不公正な採用選考が極めて発生しにくい土壌がすでに作られており、この取り組みは地域の大きな誇りである。野洲市の事業者は、人権や公正採用の問題において大いに期待でき、信頼できる。
12. 吹き荒れる「自己責任論」と差別の正当化
日本全体へ視野を広げると、歴史上これまでにない「逆行」の嵐が吹き荒れている。かつて先人たちが命がけで潰してきた「裏からの身元調査」が、SNSの裏アカウント調査やバックグラウンドチェックとしてネットを隠れ蓑に横行し、社会のタガが完全に外れてしまっている。この現代の最悪な社会風潮の正体は、インターネットを中心に蔓延する「自己責任論」という怪物である。「脇の甘いSNSの使い方をしている奴が悪い」「炎上する要素を抱えているのが自業自得だ」という理屈は、大正から昭和にかけてこの国を覆った「差別される側が悪い」という歪んだ差別の正当化論と全く同じ根っこを持っている。生まれ育ちや家庭環境は本人の意思で選べるものではない。それにもかかわらず、現代社会は一度のSNSの書き込みや選べない背景を指差し、「自己責任」として人間の価値を全否定し、一斉に排除しようとする冷酷で醜い実相がある。この風潮が企業の採用選考にまで暗い影を落としている今だからこそ、私たちは前例踏襲を捨て、もう一度原点に立ち返って公正採用選考を徹底的に進めていかなければならない。
13. 日常に潜む罠:微細な攻撃「マイクロアグレッション」
日常の何気ない会話の中で相手をジワジワと傷つけていく、一見あからさまな差別とは取れない行為を「マイクロアグレッション(微細な攻撃)」と言います。例えば「男なのに料理上手ですね」という言葉は、発言側に悪意はなく、むしろ褒めているつもりであっても、その裏には社会に根ざしたジェンダーの偏見が潜んでいます。言われた側は、日常でその言葉をかけられるたびに釈明を強いられ、精神的に大きな負担を感じることになります。この苦痛は「一生、耳元で1匹の蚊の羽音が鳴り響き、心が休まらない状態」に例えられます。あからさまな実害(刺されること)がないため、周囲からは「大した被害ではない」と軽視されがちですが、被害当事者にとっては数千・数万回とダメージが地層のように積み重なり、心はボロボロに疲弊していきます。他人の目からは見えないこの「耳元の蚊の羽音」のような苦痛に気づくために、私たちは日常の中で想像力を養う学びを深める必要があります。
14. 差別の真の原因「無知・無自覚・無関心」の悪循環
本講演の締めくくりとして最も重要なポイントは、何が差別や人権侵害なのかを見抜く力をつけることである。そもそも社会から差別がなくならない本質的な原因は、他でもない「無知」「無自覚」「無関心」の3つにある。一言で言えば「知らん、気づかん、関係ない」という姿勢であり、この3つの「無」こそがすべての差別の温床となっている。「自分には関係ない」と思えば人間は学ぶのをやめ、学ぶのをやめるからこそ何が相手を傷つけるのかに「気づかない」ようになる。そして、気づかないまま「差別される側が勝手に学べばいい」と冷酷に突き放す。この姿勢がさらなる無知と無自覚を生み、差別が社会の中で再生産され続ける「悪循環の負のループ」を形成してしまう。このループは、私たちの代で絶対に断ち切らなければならない。ループを抜け出すために必要なのは、「私は差別していないから大丈夫」「うちの会社はちゃんとしている」という慢心や甘えからの脱却である。「もうこれ以上学ばなくていい」と過信した瞬間、人は無関心の極みへと突き進み、日常の言葉で無自覚に人を傷つけ、面接で不適切質問を犯す「加害者」になりがちであるという冷厳な事実を知るべきである。逆に、「自分はまだ無知かもしれない」「時代に合わせて知識をアップデートしなければならない」と常に危機感を持って学び続ける人こそが、職場のコンプライアンス違反を未然に防ぎ、従業員の命を本当の意味で守ることができる。本日得た学びを、自社における「自己啓発」と「書類や面接の点検」へとつなげ、企業内での本気の啓発活動へと結びつけることが強く求められている。
15. 足元から発信し、公正な未来へ繋ぐ
人権や差別の問題は時代とともに刻々と姿を変えていく。だからこそ企業は、単に表面上のルールをなぞるだけでなく、「なぜルールが変わったのか」という変容の理由や深刻な社会的背景の真実にまで触れながら、全社を挙げて学びを重ねる必要がある。「なぜ内定後の家族書類を見直すべきなのか」「なぜSNSの裏アカウント調査に手を染めてはならないのか」という理由と歴史を深く知ってこそ、本気の取り組みへと繋がる。講師自身、人権情報誌の編集を通じて専門家の立場にありながら「圧倒的に視点が足りなかった」と日々痛感しており、人権問題に終わりという「ゴール」はない。そのため、企業は「うちはもう大丈夫」という傲慢さを綺麗に捨て去らなければならない。大きな社会を変えるのは難しくても、まずは自社という一番近い足元から人権の土台を固めることが重要である。事業者自身が公正採用のメッセージを発信し、社内書類を総点検して啓発を続けるという小さな一歩を、明日から実践してほしい。日本全体に冷酷な自己責任論や差別が蔓延する現代だからこそ、各職場での地道な発信と実践の積み重ねが重要となる。それこそが、未来の子どもたちがルーツや失敗に怯えることなく、本人の「適性と能力」だけで堂々とイーブンに勝負できる真の「公正採用選考」という輝かしい未来へ繋がっていく。
アンケート結果
| 1.講演内容の感想 | |
|---|---|
| 1 | 出自や属性で人の価値を図ろうとしている内容に触れられた部分はよかった。障害者差別(立場の違い)について、気付けた。 |
| 2 | 住む場所、親等によって採用が公正に受けられないことはなくすべきかと思う。ただSNSでの裏アカウントで炎上させたことで会社が教育していく考え方がまだ身についていないことを感じた誤りを許すことはしなければならないが、思いが追いついていない。 |
| 3 | カエルの色がついて見える体験や、クイズ形式の話を通して人権について考えることができたのが良かった。 |
| 4 | お話は良く分かる。昔は常識、今は非常識ということが良く分かった。 |
| 5 | 人権は人命を守るためという言葉がよかったです。 |
| 6 | わかりやすい研修でした。差別について勉強になりました。 |
| 7 | 何度も聞いた内容の研修だったが、あらためて認識することが出来た。 |
| 8 | 時間通りに終わってほしい。(業務の中都合をつけて参加しているため) |
| 9 | 部落などの背景を知ることができた。 |
| 10 | テーマがしっかりしていて、最初から最後までよく理解できた。 |
| 11 | 応募用紙に対しては今までと同じではなく、必要ない所はなくし、個人の必要ない情報を手に入れない必要があると感じた。SNSの裏アカウント調査などを行っていることにビックリした。生まれ育った場所は選べないので、その人自身を見れる採用選考でないといけないと感じた。時代が逆もどりしないようにしなければいけないと思った。 |
| 12 | SNSの事例を知れて良かったです。 |
| 13 | 事業所の中で様々なバックグラウンドを持っている方がいて、立場立場をカバーする人権研修が必要であると感じた。職場の中でマイクロアグレッションが起こっている可能性があり改善していきたいと思います。 |
| 14 | マイクロアグレッション大変よかった。もしかすれば、自分もそのような発言をしているかもしれない。 |
| 15 | 採用選考に対し、統一されているが、昔は、身近に差別する様な調査がなされていたのが浮かびました。今では、社内研修、学校での研修の積みかさねで改善されてきました。将来とも続く課題だと思います。(社内環境の変化に従う) |
| 16 | 口調が荒くなられる場面があり、聴いていて不快になる場面があった。考慮された方が良いと思います。丁寧さが欠けている。乱暴な決めつけは、差別を逆に助長すると思います。 |
| 17 | 人権や差別に対して学ぶことの大切さがわかった。※普段気づかないことが沢山あることがわかった。近況の人権、差別に対して理解できた。 |
| 18 | 多様なエピソードの中でわかりやすくお話くださってよかったです。 |
| 19 | SNSの件、水平社の部分はよかったです。 |
| 20 | 統一応募用紙が策定されるまでとても長い月日がたっている。水平社宣言より50年たってやっとスタートラインにたてた。50年となると人が生まれて人生も半ば過ぎる、昔であれば「人生50年」とうたわれたほどだ。差別という歴史は人の生活に「普通」としてとけこみ、それが問題と気づくのは学習した時である。もしかすればそれでも気づけないかもしれない。それはその人の「常識」となっているのかもしれない。今でもどんな形であれ差別がある。これは学習する場所が無いだけなのか。本題とはずれたが難しい問題だ。 |
| 21 | 年初に聞いていた内容のプラスアルファで話をしてくださって分かりやすかった。講習中の話の強弱がよかった。 |
| 22 | 難しい問題だと思いました。 |
| 23 | 社会背景から考える視点、興味深く聴かせていただきました。なぜ、人間は差別をしてしまうのでしょうか? |
| 24 | なぜダメなのかを学べて良かった。ダメはわかっていてもその理由をわかっていないと説明できない。 |
| 25 | たくさんの学び・気づきを得ることができました。 |
| 26 | 自身の意識を変えることが必要。特に相手の立場になって考えることが大事だと知れた。 |
| 27 | なぜそれが差別につながるのかわかりやすかった。 |
| 28 | SNSで差別が繰り返されていたとは…。時代が経つと徐々にうすれていくものと信じていたのである。 |
| 29 | 子供のころは水平社運動のことよく勉強したなと思って思い出しました。よく母が(マイクロアグレッションって言うんですね)部落の方が些細なことでも差別や!って騒いで、些細なことをした方がお住まいの地区で1週間人権学習が開かれたとかいってたなと久しぶりに思い出しました。滋賀で在所といっても差別ではないですが、京都では差別になるとか。難しいです。勤務先では合理的配慮はおこなっていますが、限界があると感じています。勤務先だけで抱えることには限界がありますのでもう少し助けていただける仕組みはないのかなとも思っています。少数意見を無視するわけではありませんし対応をしてはいますが、上手くいくことばかりではありません。歩み寄れる部分を探すしかなくて難しい時代になったなと感じています。 |
| 30 | 同和のことについて、知っていると思っていたがいまだに続いている問題など理解が不十分だということに気づくことができた。「全盲のTさん」や「裁判官」の事例を挙げて考えることができ、わかりやすく、よかった。 |
| 2.研修会で学んだことの中で、ご自身の生活やお仕事に活かせること | |
|---|---|
| 1 | 職場にて本研修の内容は共有していく。 |
| 2 | マイクロアグレッション何げなく小さい発言で相手を傷つけていたこと。 |
| 3 | 「マイクロアグレッション」普段の生活で気づかないうちに、自分の言葉で人権侵害をしているかもしれないと思った。細かなところまで気をつかって過ごしたい。 |
| 4 | 採用にかかわるため、参考としたい。 |
| 5 | マイクロアグレッションいけないことでも相手を傷つけること、「あなた外国人でしょう」などを意識して使わない。 |
| 6 | さまざまな人権問題を認識した。日々の業務でも自分だけではなく、組織に広めていく必要があると感じた。 |
| 7 | 従来の本籍地や親の職業等を聞くこと調べることは差別であることはよく理解していたが、SNSで裏アカウント等を調べることは安易にしてしまう。人権侵害になってしまうことを自覚し採用にあたりたい。 |
| 8 | 私自身採用に関わっていないが、応募用紙の見直しや公正な採用選考ができるよう採用担当に働きかけていきたい。 |
| 9 | マイクロアグレッションは、差別したりする意味がなくても相手を傷つける事もあるので、自身の発言を今後気をつけていかないと感じました。 |
| 10 | 発言している方には、相手を傷つけたり差別したりする意図はないが、その言葉の中に異なる人権、偏見、差別が含まれている…を社員に伝えていく。 |
| 11 | 講師より、野洲市の「公正採用選考」「人権」の取り組みが良いと言われました。継続して研修をお願いします。 |
| 12 | 公正な採用は、必要であるのは、当然です。 |
| 13 | 人権や差別に対して学ぶことの大切さがわかった。※普段気づかないことが沢山あることがわかった。近況の人権、差別に対して理解できた。 |
| 14 | 現在、SNSのアカウント調査はしていないが、今後、社内で検討されたら、本日のことをおもいだし、調査しない様に説明したいと思う。 |
| 15 | 家族構成を必要のある時以外書かせないこと。 |
| 16 | 細かい事に気づかいすることが少ししんどい。 |
| 17 | 定期的に学び続ける必要があるテーマ、内容でした。 |
| 18 | マイクロアグレッションは長期間にわたると大きなダメージになることがあり、小さな言動にも注意していかなければならない。 |
| 19 | 面接の内容について、毎年確認はしているものの再度確認し、面接実施者へ周知していこうと思います。 |
| 20 | マイクロアグレッションなど、これからも学んでいくべき事が多い。 |
| 21 | 相手に無関心なことは差別に値するということで職場でも気を付けたい。 |
| 22 | 社内の書類等、見直しを行いたいと思います。 |
| 23 | 蛙の絵が緑に見えたのは、経験による思い込み!?実社会でもこういった思い込みによる判断に至らないよう気を付けたいと改めて感じました。 |
| 24 | 人権啓発担当者ではありますが、差別はダメと皆に伝えられるが、分からない人(偏見の強い人や差別する人)に私は伝えることが出来るのであろうか。勉強が足りないなぁと思う。 |
| 25 | マイクロアグレッション…もうしゃべるの怖いなと思います。面接に関わる機会もありますので、これからも業務に関連したことを質問していきます。 |
| 26 | マイクロアグレッションについて、言葉を聞いたことがあったが具体的な話が聞くことができて理解が深まった。自身の言動をふり返ること、これから意識していきたい。 |